2018/11/26
お気に入りのものほど、袖や裾のほつれや穴あきなど、どうしても傷みが出てきてしまうもの。それでもなんとか着ていたいし、身に着けていたいと思う。これからもずっと大切にしたいからこそ、ひと手間かける「お直し」に注目したい。お裁縫が苦手でも覚えてしまえば簡単にできるお直しは、女性も男性もできたらもっと服が好きになるはず。丁寧に繕う生活始めてみませんか?
ひと針に込める思いとは?
「元のようには直せないけれど、直したことで前よりもっと好きになってほしい。お直しをした後も前と同じように使ってもらうことを考え、気持ちよさを重視したり。進化させつつ、最初の風合いも残す工夫をしています」。
〝繕う〞ことのテーマをそう話してくれたのは、暮らしの装飾家・ミスミノリコさん。
「8月に発売された新刊の制作のために大切なお洋服や靴下などをたくさんお預かりしました。その際に必ず伺うのが、その服に関するストーリーです。お気に入りの箇所、穴があいてしまった状況など、お直しのヒントにしています。もともと一から何かを作るより、リメイクするのが好きだったのですが、最初のきっかけは山登りの靴下に穴があいてしまって、自分で繕ったこと。当時はかぎ針で糸を編んでかかとに当てる方法でお直しをしていたのですが、ダーニングマッシュルーム(ヨーロッパで伝統的に行われている、衣類の穴あきなどを修繕する針仕事のこと)を知ってからはこの方法が多くなりました。最近では、小さい穴をふさぐのにニードルパンチ(羊毛などを重ねてニードルで刺して圧縮し、フエルト状にすること)が、簡単な繕いにとてもいいなと思いました。ほとんど目立たないですし、反対に目立たせることもできます」
細かい刺繍が得意だということではない、しかしそういうミスミさんだからこそ、特別なテクニックではなく、みんなが本当にやってみたいと思えるアイデアが生まれるという。
「繕い物はお手紙を書くような感覚。私に思い出の品を託していただいた方にどういうお返事を出すか。楽しみにしてくださっていたことがわかると、やはり嬉しいですよね。ワークショップも開催しているので、まずは簡単なものから試してみるのも良いと思います」
ラトビアのスクエアバスケットに、毛糸玉を入れた柳のバスケット、義祖母の家の納戸で見つけた年代物のカゴ。その中にはインド産のニードルケースやシラカバの木で作られたまち針ケース。『ボックス&ニードル』で購入した箱にはかぎ針、飼い猫に似ているという猫メジャー、古着のニットベストを元に作った針ケース、小学生から使っているという定規まで、愛用のものを詰め込んでワークショップに向かうミスミさん。
「お繕いの方法を知っていると虫食いや食べこぼしも、ラッキーなことに思えてきます。マイナスをプラスに変換できる楽しみをワークショップで共有できたら嬉しいです」
カゴバッグに道具をまとめてワークショップへ出発
ミスミさんのお直し帖
カーテン代わりのインド綿の布は、色合いが気に入って購入。
繕う前は、引っ掛けてあいてしまったような大きめの穴があったそう。
布のデザインと糸の色味を合わせつつダーニングマッシュルームでお直し
靴下の繕いはバリエーション豊かになる。
「つま先の小さい穴には、ニードルパンチがおすすめ。擦り切れやすいかかとや足の裏はダーニングマッシュルームで。使い込むうちにパッチワークのようなデザインに」
染みと虫食いがお悩みのニットもお直しできる
「胸元にシミがついてしまったニット(手前)は、シミの上にビーズを重ねて装飾でカバー。黒いカシミヤのニットはお父様が買ってくださったもの。ニードルパンチで水玉模様に」
あのころを思い出す大切なバッグ
「子育てが大変な中で、自分へのご褒美のために購入したという『dosa』のルナバッグ。色んな手法をミックスしつつ、パッチワークのようなデザインを生かした繕いに」
布巾と練習用スワッチ
「お預かりしたキッチンリネンに穴があいてしまっていたので、ダーニングマッシュルームで繕い、あとは、生地が薄くなってしまっていたところは、刺し子で軽くカバーを」
友人の農家産の作業用ターバン
「お直し前はおでこ部分が擦り切れて、縦糸しか残っていないほど使い込んだ状態。とても愛着を感じました。布を当てて補強、頭に巻いても違和感がないよう柔らかい生地に」
繕いを重ねてお気に入りの一足を愛用
「お気に入りすぎて、穴があく度に何度も繕っているフェルトのルームシューズ。前は穴があいてしまったら諦めていたのですが、ダーニングで下地を作り補強しています」
【Profile】
ディスプレイデザイナー/暮らしの装飾家
ミスミノリコさん
美大でテキスタイルを学んだのち、ウィンドウディスプレイやスタイリングの仕事に携わる。現在は独立し、店舗のディスプレイや雑誌、書籍のスタイリングなど幅広く活躍中。ふだんの暮らしに取り入れられる、デコレーションアイデアや手作りの楽しさを発信しているミスミさん。著書として『繕う暮らし』、『小さな暮らしのおすわけ』、新刊に『繕う愉しみ』(すべて主婦と生活社)がある。
元のようには直せないけれど、直したことで前よりもっと好きになってほしい。そんなミスミさんの思いが一人でも多くに人に伝わってほしいと思う。できるだけ長く好きなモノと一緒にいられることができたら、そんな素敵なことはないだろう。本当ならそんなマイナスな出来事も、個性ととらえることができたらお繕いの魅力はもっと広がる。靴下の穴のあく場所は人によって違うし、縫い方も色もシミも同じものなんてない。世界にひとつしかない自分だけのモノが出来上がっていく楽しさがお繕いにはあるのだ。