2017/10/17
木工作家・藤本健さんの器と、その器からインスピレーションを受けて生まれた料理。
料理家・細川亜衣さんによって器がどう生かされるのか。料理と器が出合う瞬間に立ち会う。
沖縄を旅した際に、藤本健さんの工房を訪れたことがある細川亜衣さん。沖縄の地の木を使った自由な器作りに触れ、「私も熊本にいる時は熊本のものを使い料理をするので、そうしたもの作りの姿勢に共感しました」と語る。身近にある素材を生かし、本来のもち味を存分に引き出してひと皿に仕立てる。そんな器と料理が出会い、シンプルだが力強く、美しくも野性的な世界が卓上にでき上がった。
大鉢には揚げたて熱々の落花生のパンフリットを盛り、プレートの上ではイチジクとブドウの前菜が艶めく。どちらの皿にも、この時期市場に出回る地元の食材を使った。移住して7年目になる熊本は「とにかく食材が豊富」。土地の野菜、自生の植物、時には野性の肉を調理するなど、熊本の豊かな自然の中に根を張り、暮らしている。細川さんが器に求めるのは、〝景色として美しいこと〞。「完璧さや機能性はそこまで求めません。それこそ藤本さんの器は、削れていても穴があってもそれがいい。木をそのまま生かしていて、何ものせなくてもきれいだと感じます」
器は単なる入れ物ではなく、料理にとって大切な背景と考える。惹かれるのは、多少欠けていてもヒビがあっても歳月や人の営みを感じる味わいのあるものだ。少し手を加えただけの料理でも、そうした器にのると独特の存在感が生まれるという。
「私の基本は即興料理です。美味しそうな素材を前にして、自由な気持ちで即興で何を作るか考える。そういう料理が一番好きです。さらにこうしたきれいな器があると、凝ったことをしなくても、より豊かなひと皿となる気がするのです」
洋食器と好きでよく作る中華の器は大半が古いもの。淡いブルーの器も好む。イタリアではスープ皿と平皿の2枚があれば十分というミニマムなあり方を学んだ
料理家細川亜衣
料理家。大学卒業後にイタリアに渡り、レストランの厨房や家庭の台所など、さまざまな場所で料理を学ぶ。現在は熊本で活動。陶芸家のご主人と娘さんと暮らす。『食記帖』、『スープ』(リトルモア)など著書多数。季節の食材を使った料理教室も開催している。