「わたしの晩酌　思い出の春菊お好み焼き」村山由紀子

ご近所さんと吉祥寺の懐かし話をしていると頻繁に話題になるお店がある。

今は無き、お好み焼き屋さん。

山小屋風の小さな店内には大きな鉄板があって、店主のおじさんが大きな大きなお好み焼を焼いていた。店内は私語厳禁。お客さんは黙って焼けたお好み焼きを黙々と食べていた。

どうやってひっくり返していたんだっけ？？　て思うくらい本当に大きくてぶ厚いお好み焼。

春菊とシーフードも入っていてとても美味しかった。もし今まだそのお店があったら、私は躊躇なく入り黙々と食べて、その美味しさを堪能していると思う。だけど、私はその頃はまだ学生で、なんとなく店主のおじさんが怖い人に感じたし、そんな店内で食べるのがプレッシャーだったので、いつも持ち帰りにしてもらって、家でのびのびと解放的な気分で食べていた。

持ち帰り何度目かの時、いつもと同じようにお好み焼きが焼けるのを待っていたら、そのおじさんが「バナナ好き？」と聞いてきた。あの頑固そうな怖いおじさんが話しかけてきたー！と、内心とてもびっくりしたけど、バナナは好きだったので素直に「好きです。」と答えた。するとおじさんは、裏の厨房らしき場所でバナナジュースを作って、私が座って待っていたベンチまで持ってきてくれた。「もうちょっと待っててね。」と。そのバナナジュースは驚くほど美味しかった。もしかしていい人なのかも、、と私は心の中で呟いた。