海外へ世界を広げるブランド「evam eva」
2019/01/24
山梨県の地場産業のひとつである、ニット製造。海外工場の参入により価格破壊が起き、廃業へと追い込まれた同業者もいた中、近藤ニットは自社ブランドを立ち上げて、危機を耐え忍んだといいます。自然が多いのどかな町で、機械だけでなく手作業を交えて、丁寧に作られたニットは触り心地も着心地も格別。天然素材、肌触り、フィット感はどれも妥協なく、シンプルなデザインの洋服を特別な1枚に。日本だけでなく海外へも世界観を広げていく『evam eva』のプロダクトに改めて注目しました。
近藤ニットのものづくりの原点とは
優しい着心地のニットに袖を通した時に感じる、ほっした幸せな気持ち。それは冬の訪れを楽しみにさせてくれる材料のひとつかもしれません。
ファクトリーブランド『evam eva』は、山梨県の小さな町で、100%オリジナル製品を企画から販売まで行います。世代を超えて愛されているシンプルで丁寧なニットは、ブランドができるずっと前から同じ工場で、違うかたちで作られていたのです。
「近藤ニットは戦後、祖父の時代から始まりました。仲間達と企画し、手動の編み機でセーターを編んで売り歩いていたそうです。父の時代は、アパレルブランドのニットを下請けで生産するOEMの仕事が主でした。私はそのころに大学を卒業し、商社へと就職したんです」そう語るのは『evam eva』デザイナーの近藤尚子さん。大学卒業後は〝花の商社〞に入社しましたが、ほどなくして退職することとなります。
「サラリーマンという環境に違和感があったのかも。実家で仕事をしようと決め、山梨に戻りました。でも私はアパレル未経験。和歌山県の島精機製作所で1カ月半の研修を受け、編み機の技術を学び帰り、3年ほど実家の工場でも修業しました」やがて東京から地元に戻ってきた幼馴染と結婚し、夫婦で近藤ニットを継ぐことになったのです。
「このころは海外の工場が増え、洋服が安く作れる時代が始まりました。取引先も海外へと流れ、廃業する同業者もいて。私たちも短期間の納期で作るような仕事を続けていましたが、将来に限界を感じていて。そこで自社ブランドに行き着いたのです」自社ブランドの立ち上げはすべて手探りで自己流だったといいます。しかし、祖父の時代にあった「自分たちで作って売る」という原点に戻ってきた気もしたそう。
「『evam eva』は、私が欲しかった、シンプルな服をコンセプトにデザインしました。お客さんに受け入れられるのかどうかは挑戦でしたが、こだわった素材で作る上質な肌触りと着心地のニットで、シンプルなデザインに付加価値をつけられるんじゃないかと思って。糸と糸の組み合わせひとつ違えば別物になってしまう繊細な仕事ですが、私達が学んできたやり方や見せ方が生きてくる。使っている編み機も、本当は複雑な編み方もできるのですが、そこで勝負はしないで、贅沢にシンプルなニットを編んでいます」そうして生まれた『evam eva』のニット。はじめは合同展に出展していましたが、取り扱ってほしいお店だけ展示会に招待するという方法に変えてから、物事がうまく回り始めたのです。少しずつ取り扱いが増え、『evam eva』の価値も確立されていきます。
「企画から販売までを自社で行っているので、間に入る会社のコストがかからず、適正な価格で販売できます。他のブランドさんも、値段を見て驚かれるんです」と、尚子さんは微笑みます。
現在工場で働くのは、昔から勤めている地元の人、ブランドに共感して県外から来た人などさまざま。かつては東京の青山に企画部を置いていましたが、山梨に呼び寄せました。
「山梨で自然に触れていると、無意識のうちに自然界の色合いなどが商品に落とし込まれているのかなと感じます。その絶妙な感覚は体験しないと得られないものなので、やはり企画部も山梨に置くことにしました。企画と現場が近いと大変なこともありますが、意思疎通が早くなり、できることも増えました」今やブランドのファンは全国に広がっています。働き方は時代とともに変えてきた部分も多いですが、逆に創業時からずっと守り続けていることもあります。
「機械も自動化されてどんどん便利になっていますが、編まれたニットに傷がないか1枚ずつ確認したり、ボディに袖をつける時はひと目ずつ手作業で機械に刺してつなげたり、昔ながらの方法を守っています。仕事を渡す時も、次の工程の人が仕事をしやすいように、思いやりのある作業をすることも変わりません。それは私たちが作る製品が、自分たちの手からお客さんに渡るというところにもつながっていきます。そうして丁寧に作り上げていく意識は、会社全体で高め合っています」これからもさらに広がり続けるだろう『evam eva』は、伝統とブレない軸が未来を拓いていくのだと感じるのです。
特に定番もトレンドもなく、“今着たいもの”を作る。
夏の型を秋冬用の型へと変える際の少しのデザイン修正なども、すぐに現場へ伝わるのが強みです
ニットができるまで
布帛製品の布を裁断
ニットを編む横編み機
3~16ゲージまで揃う
編み上がったニットは人の目で検査
ロックミシンで縫製
リンキングでニットをつなぎ合わせる
布帛の製作
完成品を洗い風合いを出す
タグを付ける
仕上げのアイロンで完了
一体成型ニットなど新しい取り組みも
evam eva yamanashi
山梨県中央市関原885
TEL:055-267-8341
営業:11:00~19:00
定休日:水曜
URL: http://www.evameva.com/
evam eva aoyama
東京都港区南青山5-17-6 #106
TEL:03-5467-0180
営業:11:00~19:00
定休日:水曜(祝日の場合は翌木曜休み)
evam eva kichijoji
東京都武蔵野市
吉祥寺本町2-13-7 1F
TEL:0422-27-1672
営業:11:00~20:00
定休日:無休
大量生産でコスパのいい洋服が主流となってきていますが、心地のいいニットは、何年経っても気持ちのいいまま。お気に入りのニットを一枚でも持っているだけで、気持ちが晴れやかになる気がするのです。「evam eva」は、こだわった素材で作る上質な肌触りと着心地のいいニットとして、幅広い年代の女性に支持されてきました。企画から製造、出荷まで、全ての工程を自分たちで行っているからこそ、細やかな洋服が出来上がり、一度着たら病みつきになる、そんな憧れのニットブランドへと成長していったのです。丁寧な暮らし、そんな言葉がよく似合うファクトリーブランド「evam eva」が72年もの長い間愛され続ける秘密は、ものづくりの伝統とマインドにあったのかもしれません。