私らしく着こなす定番服 後編
2018/12/17
定番とされている洋服も、使いこんだ年月や組み合わせ方次第で、着こなし方は大きく変化してきます。今回は、ミリタリアのミリタリーパンツ、ジル・サンダーのジャケット、ショセのレザーシューズ3点をご紹介。様々な分野で活躍しているおしゃれな方、それぞれに聞いてみえてきた定番服の魅力とは一体。
ミリタリーパンツ×ヴィンテージシャツ 川口奏弥さん
シャツ、パンツ、ブーツはヴィンテージ。
ベストはマルタン・マルジェラが手がけていた時期のエルメス。
小物は構築的なデザインが特徴のシャルロットシェネのピアスを
古着店『ミリタリア』のスタッフを務める川口さんが偏愛しているのはミリタリーパンツ。中でも、ヨーロッパのものに強く惹かれる理由として「機能性の中に存在する柔らかな美しさ」を挙げてくれた。「元々、ミリタリーウエアは過酷な状況でも着られるように作られているのでとてもタフ。ディテール一つひとつに実用性があり、その無駄のないデザインに惚れ惚れ。そしてヨーロッパの軍モノはニュアンスのある色使いが素敵なんです。エッフェル塔のグレーが混じったような独特の色合いなので、ワークウエアであっても品があるんです」。ヴィンテージミリタリー好きだからこそ気をつけるのは、「私自身、ヨーロッパブランドを入り口に洋服の世界に魅了されたこともあり、モダンなデザインはずっと好き。なのでメゾンブランドとMIXすることも。 メンズの古着はウエストを絞っ てシルエットを調整したり、今の装いに昇華します。さまざまな状況に対応できるデザインや、 今までは生産が難しい素材を贅沢に使用するなどミリタリーアイテムの魅力は普遍的。ぜひ気軽に取り入れてほしいですね」
モーターサイクルパンツに’60年代のスウェーデン軍のシャツを。シャツはあえて前後逆に着ることで背中のワンタックがフロントにくるようにアレンジし、どこか女性らしい印象に。
モーターサイクルコートの下に 穿くボトムとしてデザインされ たフランス軍のモーターサイク ル部隊のパンツはヴィンテージの中でもレア。元々はバイクに乗る際のオーバーパンツという用途で作られたため、耐久性、 防寒性が共に高く、ガシッとした厚手の素材も魅力のひとつ。ユーロミリタリーの中でも王道的なアイテムなのだ。ヴィンテージを語る上で欠かせない“ミリタリー”。 素材使いや色合い、実用性を伴ったディテールなど各国が趣向を凝らしたウエアはそれぞれ異なる個性を放つ。こちらの「M38」は第二次大戦中にフランス陸軍のモーターサイクル部隊が着用していたもので、 無骨ながら洗練されたデザインはフランスならでは。ウエストベルトをしっかり絞れるモデルを選び、裾幅を付属のベルトで調節することで女性らしい曲線を生かしたシルエットに変化し今を感じる装いに。フロントに配された大きめのパッチポケットもアクセントとなっている。
ウエストと裾に配されたパンツと同素材のベルトをギュッと締めることで、
土管のようなシルエットに表情が生まれる
女性でも穿きやすいグルカパンツもおすすめ
イギリス軍のグルカパンツとフランス軍のM47パンツはクセがそこまで強くないので、
ミリタリー初心者でも取り入れやすいアイテム
川口奏弥さん
医療系専門誌の編集職を経て洋服の世界へ。通っていた古着店『アンコール』の 2 号店『ミリタリア』のオープニングスタッフとして参加。
ジャケット×セットアップ 長尾悦美さん
「あえて“ドレスダウン”する、ギャップのあるものと合わせても良いですよね 」。
この日は 、ジャケットのインナーにタイダイのヴィンテージ Tシャツを着ていた
個性的なテキスタイルやヴィヴィッドカラーの服も、難なく自分らしいスタイルで着こなす長尾悦美さん。今回選んだのは意外にも、究極にミニマルな『ジル・サンダー』の黒ジャケットのセットアップ。 「実は、黒い服はあまり持っていないんです。けれど、この削ぎ落とされたデザインと気品漂う佇まいに〝色気〞を感じて。 今年は特に、そういうものに惹かれます。セットアップはそのひとつ」。とはいえ、この服はこの上なくマニッシュ。「男性的なスーツスタイルこそ、女性のかっこよさを引き出せるアイテムだと思います。Vゾーンやシャリ感のある生地さえも、そう感じる要素。直球の女性らしさより、ひねる方が好き。大人としてもファッションとし ても、滲み出るような女性らしさを宿した人に憧れますね」。一方で、確かな女性としてのエッセンスも大切にしているそう。「服を削ぎ落とした時、欠かさずつけるのが赤リップ。私らしいと言ってもらえることも増えました。パリのマダムたちが歳を重ねても赤い口紅を塗っていたのが素敵で。年齢を重ねた時に、表情が華やぐ術は忘れずにいたいですね」
「セットアップ、好きなんです」と長尾さん。「男性的なスーツスタイルは、女性のかっこよさを 引き出す。マニッシュであることが、自分らしいスタイルの軸のひとつです」
2000 年代初期のコレクション。 働く女性のための理想的なファッションを具現化したジルサンダーらしい、ミニマルなデザインかつ、上質で機能的なストレッチ素材。こうしたジャケットは今も、ブランドを代表するアイテムのひとつであり、現代でも決して色褪せない。「オーバーサイズやストリート流行りが続いているからか、ジル・サ ンダーらしい品の良い佇まいと細身のシルエットにとても惹かれました。今後きっと、このバランスが出てくると予想しています。“きれいに服を着る”という流れは確実に戻ってきている要素。セットインできちんとジャケットを着ることが、私の中で再燃中です」。 70 年代、90 年代と時代は巡る。「2000年代が巡ってくること自体、とても驚きますよね(笑)」
無駄なゆとりのないシルエット、正しい位置で着るセットインスリーブ、しなやかなストレッチ素材。
これらがミニマルな中に現代的な女性らしさを感じる理由
時代性とモード感を 醸すことを大切にし ています」。
『ドリス ・ヴァン・ノッテン』 のブーツは、毎年必 ずチェック
長尾悦美さん
髙島屋「スタイル & エディット」バイヤー。ヴィンテージに造詣が深く、それを軸とする洗練されたモードスタイルは常に注目を集めている。
レザーシューズ×カジュアルデニム 森明子さん
ショセに入社する以前より、母親の影響で、スニーカーよりもレザーシューズが身近な存在だった森明子さん。着こなし方も学生時代とは変わってきているそう。「レザーシューズとの付き合い は長いのですが、以前はロングヘアで、全身きれいめでまとめるのが好きでした。今はヘアもショートで、カジュアルさのある着方が多いです。 例えばこのレースアップの靴は、靴自体がカジュアル。15年以上定番で売れているレザーシューズ。手持ちにシンプルカジュアルな洋服が多いため合わせやすいのですが、それだけだと締まりがなくなるので、きれいめなジャケットやアクセサリーなどを足して調整します。靴下は白か黒の無地。ただし、素材や編み方などは、ひとひねりあるものに」。森さんは紐にこだわり、自分だけのひと足として楽しんでいる。「レザーの靴紐が私には重厚すぎる気がしたので、コットン紐に変えました。雰囲気は優しくなりつつも、凛とした佇まいは変わりません。ショセは芯がブレないため、基本的に服選びに悩むことがありません。履き続けて風合いが変わってからも、 その時代に合った着こなしを楽しみたいですね」
しっかりケアしてきちんと感のあるレザーシューズに、ゆるいシルエットのダメージデニムをサラッと合わせる。そのギャップに大人の遊びゴコロが感じられる。
ショセのスタートは2000年。 その翌年、レディースラインができた時から作られ愛され続けている定番の型。いつの時代にもマッチする、古くならないデザインのレースアップシューズ は、いつまでも履き続けられる。履くたびに革がなじみ、表情が変わるところも楽しい。紐靴を履き続けること。 その行為から素敵さが滲み出す。秋冬になると自然と出番が増えてくるレザーのショートブーツは、流行に左右されない形で、足首まで暖かく履くことができる。楽で便利なものが喜ばれる世の 中、最初から最高の状態で履ける靴は、あとは消耗し ていくものが多いが、レザーは少しずつ足になじむ感覚を覚えながら味が出ていくもの。「今、あえてちょっと面倒なレザーのレースアップシューズを選ぶことは時代と逆行している行為かもしれませんが、細かなところに手をかけられる心の余裕に魅力があると思います」
柔らかくツヤのある牛ナッパレザー。色の経年変化が楽しめるのは黒よりも茶系がよい。
つま先に少し丸みがある方が今の洋服に合わせやすい
スニーカーを履く感覚で 白レザーを選ぶのも今っぽい
白スニーカーが流行ってから、注目度が 上がった白いレザー。
定番のスリッポンは、紐を外しても抜け感が素敵。35,000円
森 明子さん
『ショセ』プレス。主にレディース担当で販売からカタログ製作、WEB サイトの更新、メディアへの対応などを担当する。
三者三様の着こなし方いかがでしたか? 無骨なアイテムにモードなアイテムを加えたり、シンプルなジャケットに話題性のあるブーツを取り入れたり、さらには皮素材の靴にデニムを合わせたりと自分らしく服を着こなす人は、かしこまった中にラフさを取り入れる天才でもありました。それこそまさに大人の贅沢なのかもしれません。シンプルでも素材のいいものをひとつ組み合わせれば、全体が自然と締まって、着ている自分自身も少しばかり自信が持てる、そんな気がしました。