にんべん「だしとスパイスの魔法」誕生のきっかけは彼女でした
2019/01/07
アイデア光る商品の誕生には、女性の活躍が目立つ。今回は、女性ならではの発想が共感を呼んでいる「にんべん」に注目したい。2018年9月1日に、にんべんから、速水もこみちさんと新商品を共同開発し話題となった、こだわりの調味液とスパイスのセット「だしとスパイスの魔法」シリーズ。その商品開発の陰には、ある女性が大きく関わっていたのだった。日本文化と歴史を残すにんべんの新たな挑戦とは一体。
日本の食文化を届けたい
アクアパッツァ、ボルシチ、イタリアンソテー、クリームチャウダーといったレストランメニューを自宅で簡単に作ることができる、にんべんの「だしとスパイスの魔法」シリーズ。洋食なのにかつお節だしが絶妙に利き、手の込んだ料理のように仕上がるクオリティーに驚くこと間違いなし。
「にんべんアンバサダーである俳優の速水もこみちさんと、弊社の女性開発チームが一緒に作り上げた力作です」そう語るのは、商品誕生の立役者である経営企画部 広報宣伝グループ係長の木村絵里子さん。木村さんは来年で社歴20年になるが、元は事務職で、6年半ほどキャリアを積んだ。ある日、企画部の女性社員の産休を機に異動。これが転機となったという。
「一度お断りしたんですよ。でも1カ月ほどしてもう一度打診されて(笑)。でも、ひとつの商品を開発する大変さ、関わる人の多さ、そしてデザインや色の一つひとつに意味があることを目の当たりにして、仕事の変化にたじろぐどころか、燃えました」と笑う。
好奇心旺盛な木村さんは、本来の社交的な性格を次第に開花させていく。かつお節の食育啓蒙活動では、1年間アシスタントに徹したものの「園児を担当したい」と自ら講師役を買って出た。
「当時の講師は男性ばかりでしたので、園児は女性である私の方が雰囲気的にいいかなと思ったんです」。そして、こう続ける。「かつお節は薄くてふわふわしているもの。〝本来のかつお節の姿はこれです〞と本節を見せると驚く子どもが多く、かつお節は世界で一番堅い食品という説明が必要だったり、かつお節だしの試飲でかなり薄味に感じてしまう味覚の現実。日本の食文化を伝え残す使命を痛感した経験でした」。木村さんの講師役は好評を博し、小学生や親子、大人と対象を広げた。
社内外の壁を乗り越えた力作
広報業務を担当する中で、にんべんの知名度をもっと若い人に広めたいという想いを抱き、過去にコラボ商品で関わりをもった俳優の速水もこみちさんのアンバサダー起用を思いつく。
「タレント起用は随分昔にあったのが最後で、前例がないに等しい状態。社内の上層部からも反発を受けました。『タレントに頼らなくても、ブランドと商品が良ければ売れる。イメージ戦略は不要』という正論に太刀打ちできないでいました」
速水さんとは2015年7月、東京・日本橋の老舗4社と速水さんが共同開発した「日本橋もこみち1883 “まぜふり”」の関連イベントが初めての出会い。木村さんも直接ご本人と話す機会があったそうで、人柄、料理に対する想い、料理スキルの高さに感銘を受け、「一緒に商品を開発したい」と約1年間、準備を続けた。
社内で一人ひとりの意見を聞き、速水さん起用のポジティブな意見を収集。2017年3月ににんべんアンバサダー就任にこぎつけると、市場調査で特定メニュー専用調味料のジャンルには高価格帯の洋食用調味料がないことがわかり、速水さんとの開発なら価格ではなく品質で勝負できるという見通しを立てる。にんべんの商品カテゴリは、大きく「削り」「つゆ」「ふりかけ」の3つだが、第4の柱になる可能性を感じ取ったという。社外の人たちにもアンケートを実施し、商品需要の裏付けをとるなどして、木村さんは次々と商品化の重い扉を開けていった。「だしとスパイスの魔法」シリーズにかける想いは、相当熱かった。アクアパッツァ、ボルシチ、イタリアンソテー、クリームチャウダーといったレストランメニューを自宅で簡単に作ることができ、洋食なのにかつお節だしが絶妙に利いている。手の込んだ料理があっという間にできあがるクオリティーに驚くこと間違いなし。
商品開発は、2015 年に髙津社長自らが選抜した女性開発チームが担当。
部署間を超えて集まる7名はすべて女性で、試行錯誤を繰り返して作った新商品を手に笑顔が広がる
本社のキッチンで施策を練り返す速水さん。
自ら他社商品を研究し、自宅で試作を重ねる熱意に、チームの士気も高まった
きっかけは彼女から
【Profile】
木村絵里子
経営企画部 広報宣伝グループ 係長。1999年にんべんに入社し、事務職を経て経営企画部に。食育担当として全国の幼稚園、保育園、小学校を巡る。広報全般、商品開発を担当する。一度は税理士を目指して会計事務所に就職したものの税理士には程遠い業務にジレンマを感じて退職。新聞の折り込み広告で目にした求人がにんべんだった。
1999年 にんべんに事務員として入社
2005年 総合企画部へ異動。家庭用( 流通)商品の企画開発を担当する
2007年 同部内にて広報業務を担当。メディア対応のほか、かつお節食育担当として全国の保育園や幼稚園、小学校を巡る
2008年 アニメ『うちの3姉妹』スポンサー立ち上げ
2015年 日本橋もこみち1883“まぜふり”イベントで速水もこみちさんと知り合う
2017年 にんべんアンバサダー 速水さん就任
2018年 「だしとスパイスの魔法」シリーズを全国発売する
木村さんの仕事の必須アイテム3点
10年前から愛用している本革の手帳
後輩からプレゼントされたPILOTの名入れ多機能ボールペン
社名ロゴのアイソレーションに使うさしがね
にんべん
住所:東京都中央区日本橋室町1-5-5
室町ちばぎん三井ビルディング 12F
TEL:03-3241-0241(代) www.ninben.co.jp
老舗が軒を連ねる日本橋の中でも、創業318年という長い歴史のある「にんべん」。そんな日本の食文化を支えてきた歴史は、新しいアイディアにチャレンジすることでアップデートし続けている。女性社員が一丸となって作り上げる商品はまさに現代の食文化を刺激してくれる。忙しくてなかなか料理に手をかけられない、本当の鰹節だしの味を知らない世代も増えてきている中、こうして美味しいダシをベースとしたオシャレな洋食が自宅簡単に作れることは嬉しい。ダシとスパイスといった組み合わせもわくわくさせてくれるネーミングだ。美味しいダシの魅力は、これからもいろいろな形で表現してくれるのだろうと思うと今から楽しみである。