2018/07/09
いつも何気なく食べている食材や料理にはなんだか懐かしくてホッとする思い出の味が誰にでもあるもの。パンもそんな懐かしさを持つ食材のひとつです。普段は気に留めることがなくても、ふと食べたくなる思い出のパンの味がみなさんにもあるのではないでしょうか。一概に、パンといっても、食パン、コッペパン、バゲット、菓子パンに惣菜パンと、その種類はさまざま。当然、記憶とともに思い出されるパンも人によって違います。今回は5人の暮らし上手な方々に、それぞれの思い出が詰まったパンを、当時の味と形を思い出しながら実際に作っていただきました。大好物だった食パンを自分流にアレンジして楽しんだ朝食のトースト、母親が作ってくれた愛情たっぷりのサンドイッチ、学生時代の甘酸っぱい思い出が詰まった菓子パンなど、子どもの頃の憧れのパンやそれぞれの〝懐かしい味〞。当時の見た目と味を実際に再現してみたら、丁寧な下ごしらえや盛り付けの工夫が必要だったりして……。自分で作ってみてはじめて、作り手の心遣いに気がつくことも多かったそう。そんな5人の思い出が詰まったパンと、当時のエピソードを一緒にご紹介します。
山戸ユカさんの思い出のパン
シナモンシュガーパン
お父さんの思い出の味
「ユカちゃんをなめるとお砂糖の味がするね」と母が呆れるほど子どもの頃は砂糖が好きでした。トーストにバターを塗り、白砂糖をたっぷりとかけて朝ごはんやおやつに食べていたくらい。幼稚園の頃に両親がレストランを始めたのですが、私は誰よりも憧れだった父親に会いたくて、学校が早く終わった日には、父に会いによくお店に行っていました。たくさんあるメニューの中でお気に入りだったのがシナモンシュガーパン。シナモンは当時の家庭では馴染みがなかったので、とても特別な感じがしました。母とお店で働く父との思い出が詰まったパンです。
【PROFILE】
山戸ユカさん
料理研究家。アウトドアユニット『noyama』としても活動。2013年秋に八ヶ岳南麓に移住し、小さな食堂『DILL eat,life.』をオープン
大藪佳代子さんの思い出のパン
クラブハウスサンド
お出かけの後の特別なパン
小学生の頃、叔父と出かけるのが好きでした。白髪が似合うお洒落な叔父が連れて行ってくれるのは、いつもと違う大人の街。買い物や用事が終わったら、ホテルのレストランでクラブハウスサンドをご馳走になるのが定番のコース。
緊張感すら漂うレストランで食べるサンドイッチは、全粒粉を使った茶色のパンにローストビーフやセロリなどがたっぷりと挟まっているんです。対角線上に切られたサンドイッチは、お皿の上に上品に並んでいて、見た目も特別で味も本当に美味しかったですね。子どもの頃に、ちょっと背伸びして食べた大人のパンの思い出です。
【PROFILE】
大藪佳代子さん
天然酵母で手作りしたパンのお店『KOaA』オーナー。お店でパン作りやパンに合う料理、お菓子の教室などを主宰
星谷菜々さんの思い出のパン
カレーパン
できたての美味しさを教えてくれた味
高校からアルバイトをしていたパン屋さんの職人さんはとても優しい方で、いろんなパンを味見させてくれたんです。中でも忘れられないのがカレーパン。「揚げたてが一番だから」ともらった熱々のカレーパンはとても美味しくてびっくり! はふはふとあっという間に食べ終えて思ったのは「できたてってこんなに美味しいんだ」ということ。それまで知っていた冷めたカレーパンとはまるで別物の味だったんです。カレーパンはもちろん、他のパンもお料理も、作りたての美味しさって格別なんだと、その時に知りました。それぐらい感動の味でしたね。
【PROFILE】
星谷菜々さん
料理家。毎日の家庭料理やおやつの提案をする。著者に『BAKE 焼き菓子の基本』(成美堂出版)
江端久美子さんの思い出のパン
ロールパンサンド
母が作ってくれたお弁当の定番
小中学生の頃のお弁当の定番で、学校が午前中に終わる土曜日にも、お昼ご飯に用意されていることが多かった思い出のひと品です。母に「サンドイッチがいいな」とリクエストすると、マヨネーズと塩、こしょうで味付けした卵サンドと、焼いたウインナーにケチャップをかけたウインナーサンドを作ってくれました。ロールパンはスーパーで手に入る普通のものだし、マスタードやピクルスなど洒落た食材も入ってなかったけれど、そのシンプルな味がすごく好きでした。現在はロールパンをあまり買わないけれど、この味が食べたくなると別のパンで再現しています。
【PROFILE】
江端久美子さん
料理家・フードコーディネーター。『mado-foodstudo』を主宰し、パン・料理教室、イベントの他、雑誌や書籍などで幅広く活動
ムラヨシマサユキさんの思い出のパン
あんマーガリン
毎日通って食べた昔ながらのコッペパン
僕が通っていた高校の目の前におじいさんがひとりでやっているような小さなパン屋さんがありました。そこは給食用のパンを作っているところで、コッペパンが山積みになって並んでいたんですよね。パンの種類はそのコッペパンぐらいしかないんだけど、マーガリン、あんこ、いちごジャム、ピーナッツバター、ブルーベリーなど昔ながらの具材を目の前で両面にたっぷりと塗ってくれるのが魅力なんです。僕が特にお気に入りだったのはあんことマーガリンの組み合わせ。放課後、毎日のように通っては食べていました。
【PROFILE】
ムラヨシマサユキさん
パンとお菓子の教室『ダイドコ』を主宰している。著書に『ムラヨシマサユキのお菓子』(西東社)
パンは子どもの頃から誰にでも馴染みがある食べ物。ふわっと軟らかいパンには、温かい優しい思い出が多いのかもしれません。今回伺った5人の料理家さんのそれぞれの思い出の味は、どれも美味しそうで温かいエピソードとともに語られました。「あの頃」の美味しい記憶は、新たに再現され、次の世代へと引き継がれていくのかもしれません。今日食べたパンが、もしかしたら5年後10年後、あなたにとって思い出の味になっていたら素敵ですね。
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パン図鑑
やっぱりパンが好き!
外はサクっ、中はふんわりの香ばしいトースト、具材をたっぷりとはさんだボリューミーなサンドイッチ、魅惑的なパンの作り方をたっぷりとご紹介。もちろん、パンのお供には欠かせない、甘いフルーツのジャムやリエット、パンと合わせる温かいスープなども。基礎からアレンジ、お店情報まで、今よりもっとパンを楽しむコツが満載。パンのことを丸ごと詰め込んだ一冊に。
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